[特集] 肝炎ウイルスのA・B・C

がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科 部長 今村 顕史

昨年末から今年にかけて、東京ではA型肝炎の感染報告数が急増しています。
その感染経路や治療選択にも影響することから、私たちHIV陽性者にも関係の深い肝炎ウイルスですが、A型・B型・C型などの
種類があり、ワクチンの有無や予防方法、HIVとの関係などそれぞれ異なりることから、意外と正しく知られていないかもしれません。
そこで今号では、感染症の専門医に分かりやすく解説していただきました。

はじめに

 今、東京を中心とした「男性と性交渉をもつ男性(Men who have Sex with Men : 以下MSM)」の中で、性行為によるA型肝炎が流行しています。保健所に届出のあったA型肝炎の報告数は、2018年の第14週までの時点ですでに79人となり、その多くは性行為が原因と考えられています。かつては、1998年から1999年にも、全国的なA型肝炎の流行が起こっています。今回の流行も、各地へ拡大しながら、長期化してしまうことが危惧されているのです。

肝炎ウイルスの種類

 肝炎ウイルスとして一般的によく知られているのは、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの3種類ですが、それ以外にもD型とE型の肝炎ウイルスが発見されています。D型肝炎は非常に稀なウイルス感染症です。E型肝炎は、かつては東南アジアなどで多くみられるウイルスと考えられていましたが、近年は国内でも豚レバーやジビエ料理などを原因とした感染が増えていることが問題となっています。
 5種類の肝炎ウイルスの特徴を表ににまとめました。これらの肝炎ウイルスは、いずれも急性の肝障害である「急性肝炎」を起こします。したがって、急性感染で病院を受診した場合には、血液検査で肝機能障害を指摘されて、その原因のひとつとして肝炎ウイルスが疑われることになります。A型とE型は急性肝炎のみですが、B型肝炎とC型肝炎のウイルスについては、いずれも慢性化する可能性があります。肝炎が慢性化してしまうと、肝臓がんを発生させる原因にもなります。

種類 A型肝炎 B型肝炎 C型肝炎 D型肝炎 E型肝炎
感染経路 経口(食事・水)
性感染
血液 母子感染
性感染
血液 医療行為
静注麻薬
性感染 経口(食事・水)
特徴 便を介した性行為
でも感染あり
性感染での増加 肛門性交による
性感染あり
非常に稀 野生動物の肉(ジビエ)の
生食が問題となっている
潜伏期間 15~50日 30~180日 15~180日 30~180日 15~50日
慢性化 なし あり あり あり なし
治療薬 なし あり あり なし なし
ワクチン あり なし なし なし

性行為によって感染する肝炎ウイルス

 肝炎ウイルスは、性行為によって感染することがあります。現在、新たに発生しているB型肝炎の多くは、性行為による感染を原因としています。C型肝炎は、男女間の性行為での感染は稀ですが、肛門性交で感染リスクが高まるため、MSMでは感染が起こりやすくなります。A型肝炎とE型肝炎は、口からウイルスが入って「経口感染」することで感染します。したがって、今回のA型肝炎の流行のように、感染している人の便に排出されたウイルスが、性行為の中で間接的に口に入って感染してしまうことがあるのです。
以下に、おもにMSMにおける性感染症として重要なA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎について、各々の疾患におけるポイントを簡潔にまとめます。

A型肝炎

【感染経路】
感染者の便中に排出されたウイルスで汚染された水や食品を介して感染します。また、性行為でも便を介した経口感染が起こることがあります。
【症状】
発熱、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、おう吐、尿濃染、白眼の部分や皮膚が黄色くなる(黄疸)などの症状がでます。まれに劇症化して、重症化すると劇症肝炎や腎不全になることがあります。
【検査方法】
血液検査でIgM抗体を調べます。また、血液や便からの遺伝子の検出も可能です。
【治療法】
ウイルスを抑える治療薬はなく、症状に応じた対症療法のみです。
【ワクチン】
A型肝炎ワクチンによる予防が可能です。国内の一般的なHAVワクチンでは、3回接種(初回、1ヶ月後、6ヶ月後)するのが基本的な接種方法となっています。
【HIV陽性者の注意点】
A型肝炎は、ウイルスを含んだ便を介して感染します。したがって、アナルセックス(肛門性交)や肛門周囲をなめる行為では感染が起こります。また、肛門部に触れた指や他の人に挿入したペニスなど、ウイルスによって汚染された部位が口や肛門に入ることでも感染が起こります。
海外の国々からも、MSMの中での性感染による流行が多く報告されています。A型肝炎の潜伏期間は約1ヶ月と長く、症状が出現する前の時期から便の中にウイルスが排出されています。
また、症状が消えてからもしばらくは便に排出されます。そのため、性感染症としての大きな流行が始まってしまうと、その収束までには長期間を有することも特徴です。

B型肝炎

【感染経路】
血液・精液・唾液などによって感染します。したがって、輸血などの医療行為、母子感染、薬物使用における注射針の共用、そして性行為などによって感染が起こります。
【症状】
急性肝炎の場合には、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、おう吐、尿濃染、白眼の部分や皮膚が黄色くなる(黄疸)などの症状を起こします。
【検査方法】
血液検査によって、抗原・抗体・遺伝子検査を組み合わせて診断します。慢性肝炎となった場合には、肝臓がんの定期検査の際に画像検査も行うことがあります。
【治療法】
B型肝炎ウイルスに有効な抗ウイルス薬があります。抗HIV薬の中にも、HIVと同時にB型肝炎ウイルスにも効果のある薬があります。
【ワクチン】
B型肝炎ウイルスに有効なワクチン(HBVワクチン)があります。HBVワクチンを3回接種(初回、1ヶ月後、6ヶ月後)するのが基本的な接種方法となっています。
【HIV陽性者の注意点】
現在は、性感染によるB型肝炎の増加が問題となっています。かつての日本では、成人が初感染した場合には、自然治癒することが一般的で、慢性化することは稀だと考えられていました。しかし、それまで国内になかった、慢性化しやすい遺伝子タイプのB型肝炎ウイルスが欧米から入り、MSMを中心とした性感染によって増えてきています。慢性化してしまうと、より性感染として広がりやすくなります。
さらに、慢性化によって肝臓がんのリスクも高まってしまいます。HIVとの重複感染によってB型肝炎の進行が速くなるということは、今のところ示されていません。しかし、慢性化することによって、性感染症のリスクが長期に持続することになります。
抗HIV薬の中には、HIVと同時にB型肝炎ウイルスに対しても有効な薬があります。HIV感染に気づかずに、B型肝炎ウイルスだけを治療すると、将来的にHIV感染症の治療にも影響を与えることがあるため、治療開始前にHIV感染の有無を確認しておくことが必要です。B型肝炎は、MSMの中でも流行している肝炎ウイルスであることから、免疫をもっていないHIV陽性者はワクチン接種もすすめられます。なお、HIV感染によって免疫が低下している場合には、ワクチンによる抗体が十分につくられない可能性があります。

C型肝炎

【感染経路】
血液を介しての感染が中心で、母子感染や性感染を起こすこともあります。輸血、血液製剤、医療機器を介した感染は、先進国では激減しました。薬物使用における注射針の共用、入れ墨・ピアスなどによっても感染する危険性があります。男女間の性行為による感染は稀ですが、肛門性交では感染リスクが高まるため、MSMに
おける性感染が増えてきています。
【症状】
C型肝炎ウイルスによる急性肝炎では、肝機能障害は起こしても、特に症状なく経過することも多いというのが特徴です。急性肝炎の約70%は、慢性肝炎へと移行してしまいます。そして進行すると肝硬変を起こして、お腹に水がたまる(腹水)、目や皮膚が黄色くなる(黄疸)、意識障害(肝性脳症)などの症状がでることがあります。また、経過の中で肝臓がんを発症することもあります。
【検査方法】
血液検査によって、C型肝炎ウイルスの抗体(HCV抗体)と遺伝子(HIV-RNA)を検査します。また、慢性化した場合には、肝硬変の進行や肝臓がんについての定期検査が必要となります。
【治療法】
かつてはインターフェロンやリバビリンという薬による治療を中心に行っていました。現在は、多くの抗ウイルス薬が開発されており、治療の進歩によって8割以上でウイルスを排除状態とすることができるようになっています。
【ワクチン】
予防のためのワクチンはありません。
【HIV陽性者の注意点】
HIVとの重複感染によって、慢性C型肝炎による肝硬変への進行が速くなることがわかっています。海外では、薬物乱用者におけるHIVとC型肝炎ウイルスの重複感染が多くみられています。日本では、血液製剤によってHIVに感染してしまった血友病患者におけるC型肝炎ウイルスの重複感染が大きな問題となりました。そして最近では、MSMの性行為による重複感染が増えてきています。C型肝炎ウイルスにおいては、慢性化による肝硬変や肝臓がんが問題となります。しかし、近年の抗ウイルス療法の進歩によってC型肝炎ウイルスを排除状態とすることができるようになっています。C型肝炎の治療薬には、抗HIV薬と相互作用がある薬もあるので、治療開始前には飲み合わせについての確認が必要です。

おわりに

 この記事では、性行為によって感染する肝炎ウイルスを中心に解説しました。肝炎ウイルスは、MSMにとっても、HIV陽性者にとっても重要な感染症を起こします。これらの特徴を正しく知ることで、性行為での予防や早めの検査など、一人ひとりが適切な対応を心がけることが大切です。

今村 顕史(がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科 部長)

石川県出身。1992年、浜松医科大学卒。1997年より都立駒込病院感染症科に勤務し、2014年に同科の部長となる。東京都のエイズ中核拠点病院である駒込病院で、日々の外来や入院の診療を行いながら、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、HIV/エイズに関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。

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