意外と知らない!?血液検査結果の見方

東京医科大学病院 臨床検査医学科 村松 崇

毎回の診察時に説明を受ける検査結果について、みなさんはどこまで理解できているでしょうか?
主治医の説明に「分かっているフリをしてしまう」「異常値があるけど、特に体調が悪いわけでもないし」
「詳しく聞きたいけれど、先生が忙しそう」…様々な理由で、知らないままにしていないでしょうか。
今回は、HIV専門の医師に、検査結果の見方について解説していただきました。
特にHIV陽性者にとって関連性の高い項目を中心に取り上げています。
ご自身の検査結果と照らし合わせながら、もし気になる点があれば、ぜひ主治医に尋ねてみてください。

 HIV診療ではさまざまな検査を行っており、「検査結果を見ても、どこに注目すればいいかわからない」と戸惑うこともあるかと思います。実際、当院の外来もあまり十分な時間が取れず、一つ一つの項目を話すことができない状況です。ここでは、あらためて検査結果を見る上でのポイントや注意したい点を述べようと思います。
 異常値の場合、基準値より高ければ数字の横にH(high)や↑、低ければL(low)や↓と書かれるので、見つけやすいです。ただし、異常値だからすぐに対処しないといけない、というわけではありません。それまでの治療経過や内服薬、患者さんの体質などいろいろな要素をふまえた、主治医の総合的な判断が必要です。

血球系の検査

 いずれも基準値の範囲内であれば正常です。白血球は免疫を担当する細胞であり、好中球(おもに細菌を担当します)やリンパ球(真菌やウイルスを担当)などがあります。皆さんが毎回確認しているCD4は、このリンパ球の中でCD4という分子が表面に出ている細胞です。そのため、風邪をひいて炎症が起きた場合等では白血球数が変動し、これに伴いCD4数も変動することがあります。

合併症などで重要な検査

 肝機能・腎機能・脂質(コレステロールや中性脂肪)・血糖などの検査も、おそらく毎回行っていると思います。HIV陽性の患者さんでは肝炎・慢性腎臓病・糖尿病・脂質異常症などが問題となることが多く、抗HIV薬の副作用の結果として起こることもあります。

 いずれも基準値の範囲内であれば正常です。ウイルス性肝炎、脂肪肝、薬剤やアルコールなどによる肝障害が起きてくると上昇します。自覚しにくい臓器ですが、肝臓は生命の維持に必要なさまざまな機能があるため、うまく働かないと命にも関わります。また、ウイルス性肝炎や脂肪肝が悪化すると、肝細胞がんを発症することもあります。

 尿検査や血清クレアチニン(Cr)値で評価します。尿では蛋白尿が重要となってきます。クレアチニンをもとに計算した腎機能の指標がeGFRです。クレアチニンは基準値内であれば正常、eGFRは60以上であれば正常とされます。腎臓も生命の維持に必須の臓器であるため、悪くなると最終的には透析が必要になったり、心筋梗塞などさまざまな全身の病気を起こしやすくなります。よく使われている抗HIV薬のドルテグラビル(テビケイ)という薬は血清クレアチニン値が上昇することがあり、見かけ上、腎機能が低下しているように見えるため注意が必要です。

 総コレステロールにはLDLコレステロール(LDL-C、悪玉コレステロールとも呼ばれ低い方が良い)、HDLコレステロール(HDLC、善玉コレステロールと呼ばれ高い方が良い)が代表的です。脂質の異常は動脈硬化をもたらし、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。糖尿病は治療せずに悪化すると、眼の病気や脳・心臓を含めた全身の病気を起こしやすくなります。
中性脂肪や血糖は食後に上昇するため、正確に評価するには絶食時に採血する必要があります。かつての抗HIV薬には脂質異常を起こすものが多かったのですが、最近の薬は影響が少なくなってきており、むしろ生活習慣の影響が大きくなっています。

HIV感染症の検査

 HIVの感染により低下する免疫細胞であり、これを高い値で維持することが目標となります。ただし、個人差が大きく、値も変動しやすいので、不安に思う方も多いかと思います。白血球のうちCD4が陽性であるリンパ球を、CD4陽性リンパ球と呼んでいるため、CD4数は白血球数から計算します。そのため、白血球の変動によって値は大きく変化します。CD4数が低下していても、数ではなく割合(%)でみると、変化していないこともあります。未治療の場合は重要な検査ですが、治療でウイルス量がコントロールできている状態では、多少の変動は気にしないことが多いです。

 治療が順調に進んでいれば、「検出せず」(N.D.)や「20コピー未満」といった結果になることが多いと思います。最近は検査の精度が向上しており、治療が安定している方で低いウイルス量(10~100程度)が検出することもあります。
これらの検査はまだ発展途上でもあり、当科でも新しく採用したウイルス量の検査で異常な高値となったことがかつてありました。200を超える状態が続く場合は耐性の検査なども考慮します。

状況により追加で行う(毎回は行わない)検査

 性感染症や悪性腫瘍(がん)の検査は、通常の検査では行われていません。症状や他の検査で異常があったときや、あるいは患者さんから性感染症の不安等の申し出があったときなど、主治医が必要と判断したときに行います。血液検査の項目が多いから、これらの疾患もカバーしていると誤解されている方もいますが、HIV診療における通常の血液検査では、健康診断のがん検診や性感染症の定期的なチェックにはなりませんので、ご注意ください。

 血液検査で評価できるものとしては梅毒があります。RPRとTPHA(TPLA)という2種類の検査を行います。RPRは現在の感染状態を、TPLAは梅毒感染がこれまでにあったことを示しています。尿検査ではクラミジアや淋菌の評価をすることができます。他の性感染症については、他の方法で診断することになります。

 悪性腫瘍は血液検査だけで評価することは難しいです。診断するには画像検査(X線・CT・MRIなど)や内視鏡検査などを行います(悪性腫瘍の種類によって検査は異なります)。区市町村などでのがん検診を積極的に受けることをお勧めします。

おわりに

 私が診療をしていて感じることは、患者さんによって検査に対する姿勢も様々だということです。検査値の変動が気になって仕方ない人もいれば、まったく関心がない人もいます。ご自身の健康のことなので関心を持ってほしいのですが、検査はあくまでも道具にすぎません。数字だけでは判断できないこともありますから、結果に振り回されず、医師とコミュニケーションをとりながら上手に使ってもらえればと思います。

村松 崇(東京医科大学病院 臨床検査医学科)

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