HIV陽性者の医療費を支える仕組み

国立病院機構大阪医療センター 医療相談室 ソーシャルワーカー 岡本 学

HIV感染症の治療には、どれくらいの医療費がかかるのでしょうか。
そして、どんな制度を利用して、実際の自己負担はどれくらいになるのでしょうか。
今回は、そんな医療費と自己負担を軽減する制度について説明します。

医療費の総額はいくら?

 外来受診して、30日分の処方薬を受け取るには、例えばTDF+FTC(テノホビル/エムトリシタビン配合剤)とDTG(ドルテグラビル)の場合だと237,280円になります(表1)。検査の項目や処方薬によって金額が異なります。
 
 
 
 

自己負担は?

 健康保険に加えて、自立支援医療(更生医療)や福祉医療費助成制度などの助成制度が利用でき、継続して医療を受け続けられるように配慮されています。

健康保険だけを使用した場合

 どんなけがや病気の治療であっても、健康保険の対象となるものであれば70歳未満の方の自己負担は3割となります。HIV感染症の治療が月237,280円であれば、3割負担で71,180円の自己負担となります(図1)。
 また、健康保険には「高額療養費」として一か月の医療費の自己負担には、所得によって自己負担限度額が設けられてるので、それ超えた分の自己負担はしなくて良いことになっています(表2)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

自己負担を軽減する制度

 HIV陽性者は、一定の基準を満たすと「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能障害(以下、免疫機能障害)」として身体障害認定を受け、身体障害者手帳を持つことができます。これにより、障害福祉サービスとして、医療費の自己負担を軽減する制度を、感染経路に関わらず利用することができます。また、薬害被害者の方については、自己負担を0円にする制度(特定疾病療養費と先天性血液凝固因子障害等治療研究事業)があります。

1.自立支援医療(更生医療)

 身体障害認定を受けている人が、その障がいを軽くしたり重くならないようにしたりするため、治療を受ける権利を保障する国の制度です。例えば、腎機能障害の方が透析を受ける時などにも利用されます。免疫機能障害の場合には、抗HIV療法(抗HIV薬の内服継続)を受ける時と、日和見感染症の治療(予防を含む)が対象となる治療になります。ですので、転んで骨折した時の治療や、梅毒やB型肝炎といった性感染症の治療など、HIV感染症とは直接関係がない疾患の治療については対象になりません。
 対象になる治療については、1割負担になること、所得によって自己負担月額の上限額が定められ、それ以上には自己負担をしなくて良くなります。例えば、上限額が10,000円の場合の医療費の内訳は、図2のようになります。
 なお、生活保護を受給されている場合にも、自立支援医療(更生医療)の制度が優先されるので、抗HIV療法と日和見感染症の治療(予防を含む)を受ける場合には手続きが必要になります。
 この制度は、2006年4月1日に障害者自立支援法という法律が施行され仕組みが変わり、それまで「更生医療」という制度を利用されていた方は自己負担が増えることになりました(表3)。そして制度自体も自己負担額が3年毎に見直しをするとされています。特に、高所得の方については、自己負担を増額するか、対象外にする方向で検討が続いています。
 
 
 
 
 
 
 
 

2.福祉医療費助成制度

 何らかの障がいがある方が安心して医療を受けられるよう、医療費の自己負担を軽減する自治体(市町村)の制度です。「重度障害者医療証」や「福祉医療証」などという名称で呼ばれることが多いです。
 自治体によって、対象となる身体障害者手帳の等級や、所得制限、自己負担額など、様々なことが異なります。例えば、等級が同じで、同じくらいの所得の人でも、A県B市在住のCさんは利用ができるのに、D県E村在住のFさんは利用ができないという場合もあります。ご自身がお住まいの自治体
のホームページで確認をしてみてください。
 医療費を助成する制度には優先順位が決められています。自立支援医療(更生医療)は福祉医療費助成制度より優先されます。どちらも利用できる場合には併用することが推奨されています(図3)。
 しかし、自治体によっては併用することができず、福祉医療費助成制度の方が自己負担が軽い場合があり、自立支援医療(更生医療)を手続きせず福祉医療費助成制度だけを利用されている方もいらっしゃいます(図4)。
 
 
 
 
 
 
 
 

筆者からのコメント

HIVが障害認定の対象になったのは1998年4月1日です。認定基準を検討する中、薬害被害者、医療者、行政の方たちが、薬害被害者に限定せず「感染経路に関わらず」利用ができるように制度を作ろうと尽力されたと聞いています。
 2006年4月に施行された障害者自立支援法が国会で検討される中、「このままだと自己負担が高額になるぞ。声を上げないで大丈夫なのか?」と色々な方に声をかけ、他の障がいの人たちや、福祉関係の諸団体などと声を上げることをしましたが、法案は通過し施行されました。2006年4月以降しばらくの間は、今まで「更生医療」を利用されていた患者さんたちに「こんなの聞いてない!」「自
己負担が増えて困る!」「何とかしろ!」と(激しめに)声をかけられた記憶があります。
 福祉医療費助成制度についても、多くの自治体で、所得制限が引き下げられたり、自己負担額が増額されたりするなど、少しずつ変化しています。
 国や自治体の制度は「あって当たり前」ではなく、「応能負担」などの言葉を借りて、少しずつ自己負担を求められる傾向にあるように思います。政治に興味を持ち続けることは個人的にも難しいと思うこともありますが、制度を作るのは政治です。自分がどのような社会で暮らしたいのかという意思表示をし続けなければ、いつのまにか自己負担が増やされたり、制度自体がなくなったりしてしまうのではないかと心配しています。

岡本 学(国立病院機構大阪医療センター 医療相談室 ソーシャルワーカー)

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