HIV陽性者が老後のためにできる10のこと
お金をかけずに老後に備えるためのヒント
性的マイノリティの多くは、子なし・単身者だったり、法律に認められていない同性カップルだったり、途中で性別を変えたりだったり、そしてHIVやメンタルの病気があったり、などの条件を抱えています。そんな私たちが、勝たなくてもいいから、負けないで、低空飛行でも人生を全うするヒントを考えてみました。
お金や保険、合理的な備え方は?
1. お金に意識的になる
「お金は死ぬまで続くのか」。この命題の答えは一つ、収入の範囲内で暮らすしかありません。自分は一月いくらあれば暮らせるか、把握できているでしょうか。3~4
か月、金額メモだけでいいので家計簿つけてみると、自分の固定費(暮らすお金)が見えてきます。娯楽費(楽しむお金)や貯金・保険料等(取りのけておくお金)とのバランスを考えましょう。
世はキャッシュレス時代ですが、私はカードの類を一切持ち歩きません。つねに現金払い。すると、コンビニでペットボトル買うのでも、これ必要かな? と一呼吸おいてしまいます。一日終わると財布を整理し、1円5円を小箱に。これが半年で意外に飲み会分ぐらい貯まるものです(郵便局で数えてもらって入金)。反「大人買い」路線です。
2. 働けるあいだは働こう
よく「老後はいくら貯めておいたらいいのですか」という質問を受けます。メディアでは退職時に3千万だ5千万だという数字も見かけます。でもよく読むと、それは60歳で退職して専業主婦の奥さんと二人で暮らすための金額だったりします。人生90年時代、のこり30年をどう過ごしますか? 退職後にやりたいことがあるなら別ですが、そうでないなら働けるあいだ、たとえば75歳までは働く人生設計をしませんか?収入補填、社会参加、健康維持、ボケ防止……働くことを前向きに。
3. 貯金で出発時を少しでも高く
そのうえで、老後にそなえ、貯金で出発点を少しでも高くしましょう。40歳でたとえば月3万円、2度の賞与で7万ずつ、年50万貯金できないでしょうか? コツは会社
の財形貯蓄や銀行の自動積立で強制的に貯金し、そのお金ははじめから無かったと思うこと。40歳から20年続ければ1千万+利子になる計算です。50万が無理なら、20万でも30万でもいい、年収(額面)の1割を貯金に回そうという趣旨。10年続ければ年収1年分の貯金になります。
運用(投資)は、1千万以上の遊んでいるお金があるなら。それに勉強しないとダメ。ヒマも向学心も資本もないなら、まずは貯金の習慣を。
4. 年金額を増やす
とかく不安の年金ですが、死ぬまでもらえる国営の終身保険です。なるべく納付もれのないことが年金額を増やすコツです(自分で払う国民年金の人はとくに)。未払い分は過去5年まで後納できます(2018年9月末まで)。まず公的年金を埋めること。払った保険料は控除され、節税にもなります。
もらうときも、現在65歳からもらえる年金を70歳まで繰り下げ受給すれば、年数に応じて最大42%割増(終身続く)。働いているあいだは、年金はあとの楽しみにとっておくのも一案です(早く死んだら無念ですが…)。
5. あえて民間保険に入らない?
自分が死んで誰も困らないなら、生命保険は不要です。パートナーを受取人にできる会社も増えてきたけど、相手も共稼ぎなら、あえて保険で残すニーズは低いのでは?その保険料はべつに有効活用を。私は自分が受け取れない保険には、興味がありません(苦笑)。
お金がかかると思いがちな入院・手術ですが、強制加入の公的健康保険には高額療養費制度があり、月の自己負担の上限が8万5千円程度(食費こみで約10万。4か月目からは4万4千円程度)。入院日数もどんどん短縮される現在、民間の医療保険で備えるより、3か月入院しても医療費と家賃が払える50万(せめて30万)の貯金だけは崩さずもっておくのが賢明。それにHIV陽性者は障害者手帳もあり、医療面は厚く保護されています。割増(引受基準緩和型)までして医療保険に入るのはムダでは?
6. 病気をしない、要介護にならない
なったらどうするんですか(怒)、と言われたら困るんですが、病気も介護も予防できる部分は大きいですよね。例えばタバコ。まもなく1箱500円の時代、禁煙は経済的にもメリット大。また、肥満なども成人病のリスクがありますね。まずは節制と定期検診で早期発見・早期治療、これが一番の節約。セーファーセックスもこれ以上、病気を貰わない点で、医療費節約になります。
7. 住宅は賃貸もよし
一人か二人で住む家なら、買っても借り続けても生涯費用はトントン。むしろ移動の自由を保持する賃貸のほうが、私たち向きかもしれません。心配な高齢者貸し渋りは、今後改善が進むでしょう。大災害など持つことのリスクも高まっていますし、死後の空き家化も心配(その古家、甥が相続してくれる?)。個々人が小さな住宅にこもるより、今後は団地やシェアハウスなど孤立しない暮らしを考えたいものです。
法律にもとづく対策を
8. 同性パートナーは法的書面の作成を
病室で締め出された、認知症の相方のお金を下ろせない、相続できない…いまもこうしたトラブルが絶えませんが、法的な対処法はすでにあります。医療のキーパーソン指定や面会を事前許可する書面、相手を後見人に指定する任意後見契約、そして遺言など。こうした法的な書面について、正確に理解しておきましょう。同性婚がなくても、お金をかけなくても、できることはいろいろあります。まずは緊急連絡先カードから持ちませんか。
9. おひとりさまの終活は元気なうちに
子どもがいない、親族と疎遠、おひとりさま、そんな状況で死をどう迎えるか。そのまえにHIV陽性者はHAND(HIV関連神経認知障害)の報告も増え、認知症時にどう対応するかも気になります。単身だからこそ、自分で遺言を作り、死後に残ったものをどうするのか、葬送はどうするのか、だれにそれをやってもらうのか…元気で体の動くうちに考えておきたいものです。
安心できるHIV陽性者の老後のために
10. 3つの相談先、3人の駆け付けあい
性的マイノリティの老後に必要なもの、私は「情報」と「ネットワーク」とお答えしています。これはHIV陽性者にもいえます。もちろんお金はあればいいし、恋人があれば
なおいい。でも、お金があって不幸な人はいっぱいいるし、相方がいて寂しい人もいっぱいいます。
身体と、お金と、法律の相談先を見つけてください。身体は主治医がいます。お金はFPや保険の担当者、法律は弁護士や行政書士。自分の事情を正直に伝えて話せる人です。そして、NPOや専門家、自治体のサービスを活用する勇気をもってください。私たちもみなさんをお待ちしています。
一人暮らしの人は、自分を含め3人の駆け付け会えるリアルの仲間がいると心強い。朝晩ツイートでつぶやき安否確認、昼まで無音なら電話。駆け付けに備えて鍵の預けあい。ゲイの老人ホームは映画の中のおとぎ話ですが、こんなことならタダでもできる。別れた元彼と会えるなら、関係をつないでおくのも一法。元彼家族というそうです。
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