HIV陽性者と海外渡航

第1回 入国規制とビザ

JaNP+ HIV陽性者スピーカー けいた

 こんにちは。HIV陽性者スピーカーをしていますけいたです。HIV陽性者のミーティングに出ると「1週間海外旅行で○○に行ってきました!」という話をたまに聞きます。私たちHIV陽性者も条件(体調とかお金とか)が整えば海外旅行にも行けちゃうんですよね。感染を知る前、HIVにとても暗いイメージを持っていた私は「感染をしていてもちゃんと検査と治療をしていれば日常生活が送れる」ということの良い例だなぁと、そのような話を聞くたびに思います。
 でも、初めての海外旅行という人や、留学や転勤で海外に行かなきゃという人は、どう準備したらいいか、本当に行けるのか不安に感じる方もいるかもしれません。たまたま私は海外でHIV感染を知り治療を開始しており、その経験からHIV陽性者の海外渡航についてお伝えさせていただきます。

 

HIVに関連する入国・渡航制限

2019年6月、UNAIDS(国連合同エイズ計画)とUNDP(国連開発計画)がプレスリリースで48の国と地域の政府や行政に対して、HIVに関連する渡航制限を撤回するよう呼びかけを行っています。実はHIVに感染していることでロシアやマレーシアなどのように入国を拒む国・地域、オーストラリアやニュージーランドなどのように一部制限を設けている国・地域もあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入国を拒むと言っても、滞在期間や滞在目的によっては大丈夫な場合もあります。また確認方法も色々なので完全に入れないということは少ないですが、それでも現地に行って入国を拒否されるようなトラブルには巻き込まれたくないですよね。また、海外転勤のためのビザ申請で必要な健康診断の検査項目にHIVが入っていて、不本意な形で会社にHIV陽性が伝わってしまわないか不安ということもあるかと思います。

どこの国に行くか、目的は何か、どのくらい滞在するかによって、想定しておくべきことや手続きは異なります。ここでは海外渡航に必要な準備にどんなものがあり、どのように行えば良いかをお伝えできたらと思います。また、HIV陽性者だけでなく多くの人に、世界の国々がHIVについてどのような方針をとっているかを知る機会にしたり、日本の制度や日本で暮らす外国人の方のことを考えるきっかけにしていただければと思います。

海外に行くなら まず調べること

海外旅行に必ず必要なものといえばパスポートですが、それとセットで外国に出入りするときに必要となるのがビザです。ビザは「滞在(入国)許可証」のことで、その国の国籍を持たない人が国内に入り滞在することを許可する書類です。観光、商用、就労、留学など様々な種類があり、どこの国の人がどこの国に行くか、目的と滞在期間によって必要なビザは変わってきます。

日本のパスポートを持っていれば、90日未満(短期)の滞在であれば多くの場合に現地の入管でビザが発行してもらえます。90日以上(長期)滞在する場合は渡航前にビザの申請が必要になります。会社の転勤や現地での起業、留学、外国籍の人と結婚して現地で暮らし始める時などに長期滞在用のビザが必要となることが多いです。ビザの種類もその取得のための必要書類も様々で、学歴や雇用証明、犯罪歴がないことの証明、健康診断、銀行預金残高の証明など、多種多様です。

海外に行くことが決まったら渡航に必要なビザの種類を確認しましょう。短期であれば旅行ガイドや旅行会社で確認できます。長期の場合は各国大使館のHPや長期ビザの手配を代行サポートしてくれる会社で確認しましょう。各国政府の方針で必要な手続きも変わるので、過去に行ったことのある国でも毎回確認することが大切です。

HIV陽性者の 入国制限の調べ方

HIV陽性者の入国制限については「The Global Database on HIV related travel restrictions」という英語のサイトが各国の情報をまとめて公開しています。英語が苦手な方には見辛いかもしれませんが、まずはトップの世界地図で自分の行きたい国をクリックするか、プルダウンから国を選べば情報が見られます。

国ごとの情報は下記の3つの項目で大まかにまとめられています。その他に、具体的な事例、治療レベルと外国人が治療を受けられるかどうか、HIVの情報提供やサポートをしている団体の紹介、という構成になっています。

❶ Entry regulations(入国規則)

主に短期滞在の場合の入国に関する方針が記載されています。「No restrictions(制限なし)」と書いてあれば入国可能。「No restrictions… for short-term and tourist stays」と書いてあれば、短期の滞在または旅行の場合は入国可能という意味です。

❷ Residence regulations(居住規則)

主に長期滞在の場合の入国に関する方針が記載されています。空欄ならば短期と同様という意味です。もし「HIVtest required for work and study visa  applications of more than six months」と書いてあれば、6か月以上の商用または留学目的でのビザ申請にはHIV検査が必要となるという意味です。

❸ Additional information(追加情報)

その他の特記事項が記載されています。例えば、HIV 感染にともなうビザ取り消しや出国命令、、難民申請する場合は免除される国があるなど。

❷の欄に自分の渡航目的に当てはまる項目がある場合は残念ながら申請が通らない可能性が高いです。完全にダメとは言い切れないのは、ビザ申請が通るかどうかの基準は完全には公開されておらず、場合によって通ることがあるからです。ビザの種類によっては面接を行うなど総合的に判断される場合もあります。しかし健康診断の項目にHIVが入っている場合はHIV陽性者の長期滞在は認めないという意識の現れです。その点も考慮して慎重に対応する必要があります。

HIV陽性者の入国制限を取り巻く状況

ビザ発行の基準に「HIVに感染していないかどうか」という国は歴史的に多くありました。HIVが死の病として恐れられていた頃に、入国後に体調を崩すと対応に苦慮する、医療費が莫大にかかる、国内の感染者が増えるとさらに感染が蔓延すると考える人もいたことから、このような政策をとる国があったようです。

近年このような方針を転換する国は多くあります。アメリカは1987年にHIVに感染した人の入国を制限しましたが、この方針は2010年にようやく解除されました。UNAIDSもHIV陽性者の移動を制限することは人権侵害にあたること、地域のHIV感染抑止の観点でも効果があるわけではないことを指摘しています。しかし、入国制限をしている48の国・地域のうち30か国は方針を転換しないとしています。治療が日進月歩でよくなる中、社会制度もこれに追いついていかないといけないと思います。

 私は10代の頃に海外で1年間ホームステイをしたことがあります。異文化の中で英語もよくわからない中、ホストファミリーや学校の友人との生活をし、楽しいことも苦しいこともたくさんありました。あの1年はこの先ずっと自分の人生で掛け替えのない1年だろうと思っています。そんな思入れの強い国が、実はHIV陽性者の長期滞在を認めていない国でした。知人も多くいるので、転職してその国で暮らしたいという気持ちも心のどこかにはありますが、事実上それはできないという状況です。数年内にこのような方針も変わればいいなと期待しています。

 

 

けいた(JaNP+ HIV陽性者スピーカー)

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