【HIVと映画】『ポ ーズ! 〜マドンナのバックダンサーたち〜』『BPM ビート・パー・ミニット』

いまこそ振り返りたい、90年代の映画たち (1)

ノーマルスクリーン 代表 秋田 祥

世界には、HIV/AIDSを扱った様々な映画が数多く存在します。HIVの存在によって、多くの人々が身近な人との関わりや
性愛、あるいは政治、宗教、文化や歴史について見つめ直してきました。これらの経験に映画を通して触れることで、みなさんが持っているHIVに対する考えや感情も、また違ったものに変化するかもしれません。

 

ここ数年、90年代のファッションやエンタメなどが流行していることを知っていますか?「90年代なんて、ついこの前」と思う方もいるかもしれませんが、もう20年〜30年近く前のこと。映画でも、90年代を舞台にしたものや当時を振り返っている作品がここ数年いくつか登場しています。

例えば、1990年にマドンナが行なった世界ツアーのドキュメンタリーで顔がひろく知られることになったダンサーたちに焦点をおいた『ポーズ!~マドンナのバックダンサーたち~』は、その後の人生が決してスムーズではなかった彼らの姿を丁寧に描きます。

ツアーのテーマは、タブーを無視して正直に生きること。マドンナもキース・ヘリングがゲイであったことや彼が亡くなったのはエイズが原因だったことをステージ上で堂々と述べ社会が現実に向き合うよう訴えます。しかし実際には、皮肉にもダンサーたちの中にはまだ自身のセクシュアリティに悩む者や、日本滞在中にHIVへの感染を知ったものの誰にも言えないままだったメンバーもいたことが明らかに。でも、ただ振り返りノスタルジーに浸るだけではなく、この25年、傷を癒しながら大人になった今の彼らの姿と声も力強く伝えています。

劇映画でHIVとAIDSの存在が大きく描かれた作品としてはフランスの『BPM ビート・パー・ミニット』があります。

90年代前半のパリに住むショーンとナタンは、過激な運動でも知られるアクトアップ・パリのミーティングで出会い、ともに巨大な力へと抗います。ベースにあるのは、監督ロバン・カンピヨの1992年の経験で、話合いの様子などを丁寧に描写しつつ、蔓延る政府の怠慢や製薬会社の欲に怒り立ち向かう姿を1848 年のフランス革命と重ねて話は展開していきます。

日本経済新聞のレビュー*には「全篇にアクション映画のような力動感がみなぎっている」と。多くの人が戦争映画を観終わって「過去のことだから関係ない」とは思わないように『BPM』も今の鑑賞者に生々しい緊張感を与え、これまでの道のりにあった行動や犠牲を教えてくれます。
時が経ち、うまく向き合うことができなかった経験を見つめることが可能になることがあります。時が経ち、あの時のことを知らない人や忘れてしまった人がいるのも事実。でも、今だからこそ形になったと思わせる作品があります。今とこれからのために、過去を振り返ることは時に必要だと思います。それが難しいときには、映画がなにかの助けになるかもしれません。

秋田 祥(ノーマルスクリーン 代表)

ノーマルスクリーンでは、セクシャルマイノリティの複雑な経験を斬新な試みで表現する作品や作家を中心に日本語字幕付きで紹介。他に翻訳なども行う。

『ポーズ! 〜マドンナのバックダンサーたち〜』
原題:Strike a Pose
© Nuts & Bolts Film Company

『BPM ビート・パー・ミニット』
原題:120 battements par minute
配給:ファントム・フィルム DVD 発売中
© Céline Nieszawer

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