【HIVと映画】『ボーイズ・オン・ザ・サイド』

やっと現れた彼女たちの物語

ノーマルスクリーン 代表 秋田 祥

世界には、HIV/AIDSを扱った様々な映画が数多く存在します。HIVの存在によって、多くの人々が身近な人との関わりや
性愛、あるいは政治、宗教、文化や歴史について見つめ直してきました。これらの経験に映画を通して触れることで、みなさんが持っているHIVに対する考えや感情も、また違ったものに変化するかもしれません。

1995年製作、主役はウーピー・ゴールドバーグ。この情報だけでこの映画を観たくなる人も多いのではないでしょうか。メジャー作品ながら、今でいうインデペンデント映画のような地に足のついた雰囲気を纏っているあの頃のハリウッド映画。笑って泣ける『ボーイズ・オン・ザ・サイド』。

冒頭、ウーピー演じる歌手のジェーンは住んでいたニューヨークを離れロサンゼルスで新たな人生をスタートさせることを決意。そんな折に車でアメリカ横断の同乗者を求めるロビンに出会い映画は動き始めます。ケンカはもちろん、ドラッグに警察に破天荒な友人(ドリュー・バリモア!)や差別的な家族も登場する珍道中。忘れがたいポップソングが流れ、西部に向かうにつれて季節がかわり、光が眩しくなるロードムービーです。

少しネタバレになってしまいますが、うかない顔をした白人女性ロビン(ドラマ『Weeds 〜ママの秘密』で人気のメアリー=ルイーズ・パーカー)が旅立つ背景には、彼女のHIVへの感染があり、この映画はHIVを持つ女性をハリウッドで描いた初めての作品といわれています。元気に西海岸にたどり着けるのか、まだ恋はできるのか、親に感染のことを伝えるのか。不安と期待のなか、様々な出会いが待ち受けます。

HIVと生きる女性が描かれることがその前後も少ないことから本作が珍しい存在であったことは想像に容易いですが、公開されたのは1995年と、随分と時間はかかっています。ハリウッドはそもそもHIVやAIDSへの応答が非常に遅く、本作品より前に発表された低予算のインデペンデント映画、テレビドラマやテレビ映画を経て、1993年には、有名な『フィラデルフィア』が。その成功があったために本作の製作にグリーンライトが出たものと考えられます。

90年代のアメリカでは、HIVと生きる女性の数が急増。1993〜1995年のエイズ患者全体の17.5%(43,383人)が女性と報告されています。しかし、メディアはHIVを男性だけの問題のようにとりあげ、女性を無視してしまっているようでした。その状況や男性だけを念頭においた米国疾患対策センターのAIDSの定義に対し、1991年、グランフューリー(アクトアップのデザイン部門)は、「Women Don’t Get AIDS They Just Die From It(女性はエイズに感染しない、ただエイズで死ぬだけだ)」と書いたポスターをバス停で掲げ意識の向上を求めました。

早くからエリザベス・テーラー エイズ財団の活動にも参加していたウーピー。彼女が映画のなかでAIDSと向き合うこの作品には、バリモア演じるホリーの子供っぽい複線もありますが、セリフにはない、言葉にならない瞬間も多く描かれ、エイズ患者や女性のステレオタイプを越えた姿を映し出そうとしています。

 

秋田 祥(ノーマルスクリーン 代表)

ノーマルスクリーンでは、セクシャルマイノリティの複雑な経験を斬新な試みで表現する作品や作家を中心に日本語字幕付きで紹介。他に翻訳なども行う。

『ボーイズ・オン・ザ・サイド』
原題:BOYS ON THE SIDE
DVD発売中 ¥1,419+税
20世紀フォックス ホーム エンターテイメントジャパン

参考:
・Elizabeth Taylor AIDS Foundation ウェブサイト
・First 500,000 AIDS Cases -- United States, 1995, Centre for Disease Control, US
Department of Health and Human Services. 1995年11月
・Reassessing the Critical Legacy of Early “AIDS Movies”: Longtime Companion,
Philadelphia and Boys on the Side. Paul Sendziuk & Eva Squire. Screening the
Past. 2019年3月

*日本語字幕(翻訳)に一部不適切な表現が見られます。

ツイート
シェア