【HIVと映画】Queer Japan! 長谷川博史さんを偲ぶ晩年の映像作品

JaNP+を設立した長谷川博史さんが亡くなった。今回は彼の記録の一つとしても鑑賞できるドキュメンタリー『クィア・ジャパン』を紹介します。アートやパフォーマンスの領域でクリエイティブな表現を行う人々を中心に、バーを経営したり様々なアクティヴィズムに携わるLGBTQ+の人々などが、大勢登場する壮大な作品です。2019年に第28回レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~で世界初上映され、世界各地の映画祭で好評をはくした本作はそれ以降、日本では上映されていませんが、実はオンライン配信中。日本からも鑑賞できます。

監督はロサンゼルスを拠点にするグレアム・コルビーンズ。彼は以前から親交のあった田亀源五郎さんを入り口に、型にはまらない人々の声や働く姿を丁寧に見つめ、紹介していきます。そんな田亀さんが本作内で友人と紹介するのが長谷川さん。二人は雑誌のG-men編集部での思い出を話し、互いに刺激を与えあった日々を振り返ります。長谷川さんがポジティブであることを公表しながら誌面でHIV予防について啓蒙していたことで「安心感があった」とも田亀さんは語り、薫陶を受けたことがわかります。(長谷川さんは雑誌バディでも「ポジティブダイアリー」というコラムを連載していたこともあった)

「僕のゲイライフっていうのはむしろ感染がわかってからなんです」

長谷川さんは、HIV感染により、やっとゲイとしてのアイデンティティを強く意識し始めたのだと語ります。そして、「いろんな人が陽性者としてカミングアウトできる場を作りたかった」とJaNP+を設立。東京だけでなく、沖縄や大阪なども含んだ100分の映画のなかで長谷川さんに与えられた時間は短いながら、その熱い思いと功績がうかがえます。映画には、JaNP+のファンドレイジングイベントの様子も。

『クィア・ジャパン』には、よく知られた人から、初めてカメラの前で話をする若い人までいろいろなジェンダーやセクシュアリティの人がそれぞれの経験を語っていて、2010年代後半の日本の記録としても重要な作品です。日本のHIV陽性者の可視化や啓発にしなやかに尽力をつくしてきた人たちも登場。 その中には長谷川さんの影響が、そして長谷川さんが尊敬していた、映画には登場しない人々の存在もきらきらと感じられるような瞬間が何度もあります。

今後も節目ごとに見返されるであろう本作。鑑賞者が出演者との思い出や、(直接会ったことはなくても)受けた影響、自分の経験などを話し、それぞれの形で作品に厚みを与えていきたい作品です。

・ 『クィア・ジャパン』は、台湾の動画配信サイトGagaOOLalaで配信(有料)されています。
・本作とは別に長谷川さんが主役のドキュメンタリー『私はワタシ~over the rainbow~』も 2017年に発表されています。この作品では、長谷川さんがパフォーマンス(朗読)をする姿もしっかりと記録されています。
・長谷川さんが「HIVとゲイコミュニティ」について語る映像はコミュニティセンターaktaのYouTubeチャンネルで公開されています。

『クィア・ジャパン』(英題:QUEER JAPAN|監督:グレアム・コルビーンズ|2019年|日本/アメリカ|101分)
写真提供:グレアム・コルビーンズ

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