Mpoxワクチン接種の前に知ってほしいこと

なぜいま「臨床研究」なのか...背景と疑問

JaNP+ 代表理事 高久陽介

すでに報道されている通り、厚生労働省は、男性同士での性的接触がある人を対象に、Mpox(サル痘)の発症予防のためのワクチン接種を行うことを決めました。

HIVの研究・医療の中核を担う国立国際医療研究センターを中心に、2023年6月にも複数の医療機関で臨床研究として接種を始めるとされ、具体的には、主要なエイズ治療拠点病院に通院するHIV陽性者や、国立国際医療研究センターが運営するSH外来を受診されるゲイ・バイセクシュアル男性を対象に、この臨床研究に参加する患者を募ることになります。

 

※ Mpox(サル痘)の感染経路・治療・予防について詳しく知りたい方へ → NIID:国立感染症研究所HIVマップ

※ 現在は、感染者の家族等が接種対象となっています。本記事では、おもにMpoxの既往がない方への接種について述べております。

 

JaNP+では、HIV陽性者の人権と健康を守ること、および患者の医療に関する自己決定の観点から、以下の背景について知っていただいた上で、今回の国内でのMpoxワクチン臨床研究への参加するかどうかを検討をしていただきたいと考えています。

 

まず、Mpoxワクチンには以下の2種類があります。

  1. MVA-BN
    海外ですでに大量の接種実績をもち、HIV陽性者を含め安全性・有効性について多くのエビデンスが蓄積されているワクチンだが、日本では未承認であるため現時点では使用できない。皮下注射あるは皮内注射での接種が可能である。
  2. LC16
    国内での臨床研究で用いられるワクチン。二又針を用いた接種であるため接種手技の指導および習得が必要である。安全性に関する臨床エビデンスの蓄積は十分ではない。

 

厚生労働省のこうした決定は、すでに欧米で安全性・有効性にエビデンスのあるMVA-BN(1)を導入していない一方で、まだ臨床研究段階で治験も始まっていないLC16(2)の臨床研究を待っているように見えます。

2023年3月2日付のWHOの資料によると、世界83か国がMVA-BN(1)を調達したと書かれています。

また、LC16を製造しているKMバイオロジックスの新島氏は、2022年9月15日に厚労省で開かれた第67回厚生科学審議会感染症部会において、「(LC16は)弱毒生ワクチンになりますので、免疫抑制剤とか免疫機能が低下した方というのは基本的に禁忌となっております。先ほど御質問いただきましたHIV陽性者の方につきましても、臨床試験でこのような方を対象にしたデータというのはとっておりませんので、人でのデータはないというところになりますので、やはり基本的には接種は禁忌ということになります。」と明言しています。

KMバイオロジックスは、長くHIV/AIDSに取り組む国内のコミュニティの間では薬害HIV事件の被告企業・化学及血清治療法研究所(化血研)の系列会社としても知られています。

このような状況になっている理由は未だ不明ですが、国が特定企業の経済的利益を優先し、患者の健康を後回しにしているのではないかと疑わざるを得ません。

すでに臨床レベルで安全性・有効性が認められているワクチンを導入する決定を行わずに、HIV陽性者やゲイ・バイセクシュアル男性等を“実験台”にしてまで、あえてリスクのあるワクチン開発を国が後押ししているのは、なぜなのでしょうか?

 

こうした行政の決定に介入するには、専門的知見を持つ医療従事者・研究者の意見が必要です。JaNP+では、代表の高久が現在日本エイズ学会の理事となっており、エイズ学会として適切なワクチン接種が行われるよう要望を行うことを検討しています。

しかし、すでにLC16の臨床研究は開始されておりますので、こちらをお読みいただいた皆さんが接種を勧められた場合には、上記を考慮に入れた上で検討していただけたら幸いです。

高久陽介(JaNP+ 代表理事)

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